きっと、同じ心配をしている。
大学病院は迷路だ。
初めて訪れた人は、それぞれの科の受付で、次にどこへ行けばいいのか訪ねることがほとんどだ。
今の病院にお世話になってもう10年以上になる私は、何がどこにあるのか、たいていの場所を知っている。だから受付で「ここへ行ってください」と説明を受けた人が、ちゃんとあるべき場所へ行くかどうか、時々気になってしまう。それが老齢の方だと尚更だ。
人が少なくなってきた大きな待合所で、受付に行き先を訪ねているおばあさんがいた。思わず足取りを目で追う。すると、同じようにその人を目で追っている男性がいた。
どういう気持ちで見ていたのかはもちろんわからないけれど、きっと私と同じ気持ちなんじゃないだろうかと思った。おばあさんが正しい角を曲がった瞬間、私は小さく安堵して手元のスマホに目を落とした。その男性もすっと顔を落とした。
病院には色んな人が来る。
受付で自分の番はまだかと喚き散らす人、大きな声で付き添いと喋り続ける人、それらがまるで聞こえないかのように黙々と手元の娯楽に没頭する人。
病院は、病人が来るところだから、基本的に他者を気遣う余裕が無い人たちばかりなのだと思う。もちろん私も、本当にしんどい時は周りが目に入らない。
鬱屈とした空間の中で、その男性と小さな真心を共有できた気がして嬉しかった。
男性の真意はわからない。
でも、そう思う方が幸せじゃないか。